ウエダキヨアキの「お城オブジェ」の印象は様々だ。
若いアニメ世代は「天空の城ラピュタ」、「ルパン3世 カリオストロの城」、ヨーロッパを旅した方には中世の古城や城砦、田舎の古びた教会や修道院。
16世紀のベルギーの画家・ブリューゲルの描いた「バベルの塔」を連想された方も多い。
ギャラリー奥のアートシーンには、ウエダキヨアキの手によるインスタレーション「お城オブジェ」が置かれている。
カタチとサイズは、底辺80センチの正方形で、高さ2メートル余の四角錐、壁面には妖しげに模様が描かれている。城壁には最上部まで階段が続く。階段の1段の高さはおよそ3~8ミリ、1段を25センチくらいとして計算すると、高さが100メートルを超える巨大な城砦だ。
突然、この大きな「お城オブジェ」を登ってみたくなった。勿論、実際にではない、空想でだ。階段6~7段の背丈に小さくなって登るのだ。高さ100メートルに一瞬たじろいだが、こんな巨大な城砦を築いたウエダキヨアキの苦心を想えば、Galerie Steine Direktor として、登らないのは仁義に悖る。方法は聞くなかれ、兎に角小さくなれた。
城砦の中は誰もいない。し~んと張りつめた静謐な空気に包まれている。巨大なエントランスホールは荘厳そのものだ。ほの暗い回廊を巡り抜けると、城壁へと繋がる扉を見つけた。城壁の四面を巡る石段は人が一人、ようやく通れる狭さだ。高く登れば登るほど、風圧を強く感じる。振り返って下を覗けば、恐怖で足がすくむ。壁にへばり付き、最上部を目指して、ひたすら登っていく。いったい何のために?
旧約聖書によれば、人間が天にも届くような高い塔を築き始めたの見た神が、その驕りを怒り、人々の言葉を混乱させ建設を中止させたという。その塔こそが「バベルの塔」だ。辞書を調べれば、自己の限界をも省みない、空想的で実現不可能な企てを意味するとある。旧約聖書の戒めの通り、人は傲慢になる必要は全くない。しかし、創造的な仕事をする者には「バベルの塔」を作ろうとする思いはあってもよいのではないか。たとえ実現不可能な空想とわかっていても、バカを承知でバカになりきり創作する美学は持っていたい。ウエダキヨアキも、Galerie Steine Direktor も、そんなダンディズムを心に秘めた表現者でありたいのだ。(作家敬称略)
ウエダキヨアキ展
2016年 7月16日(土) ~ 8月28日(日)
10:00 ~ 17:00
次の休館日は、8月25日(木)です。
ギャラリーシュタイネ
長野県安曇野市穂高有明7360-17
℡0263-83-5164